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犬笛日記

それは犬笛のような魂の叫び

24会館へゆく!

言い訳とは時に、私たちを強くしてくれるものである。
臆病で弱い私たちは、行動の責任をすべて自分で背負い込むほど強くはない。

勢いにのまれて仕方なく...どうしてもって頼まれてつい...
そういう言い訳が使えるとき、プライドが息を潜めてくれる瞬間がある。

 

ハッテン場に行こう!と彼は行った。
24会館!と彼は続けた。
7階建てで楽しいよ!ハッテン禁止の普通の休憩所もあるから安心だよ!犬笛さんの好きそうな若めのイケメンも結構いるよ!!彼はまくしたてた。


自分に言い訳をするには充分だった。

ちなみに、人間は自分がしでかしたことは状況のせいだと考え、他人が行ったことはすべてその本人の人格のせいだと思う傾向を強く持つ生き物なのだそうだ。

言い訳で欺けるのは結局自分だけなのである。それでも、それだけで充分だと思える夜だってある。31歳の春がはじまりかけているような夜だった。

 

24会館。
ホモであれば名前を聞いたことのある人間も多いその場所は、新宿2丁目にそびえ立つ有名な発展場である。

発展場とは、まぁ、ゲイが自由恋愛を楽しめる場所である。
そう考えると、新宿2丁目も、この地球だって、広大な発展場なのである。

 

24会館が他の発展場と異なる大きな特徴として、年齢制限を設けていないという事項があると聞く。

性欲をむき出しにする高齢者を前に、わたしは平静を保てるのだろうか。


でも、若いイケメンもいるって友達も言ってるし、若い人といい感じになっていれば、高齢者だってきっと、あとは若い人同士で...とかいって気を利かせて席を外してくれるはず。大和魂ってそういうことでしょ?

自分だって歳はとるわけだし、誰にでも人を好きになる権利はあるわけだし、そういう差別に注意を払うことが、ゲイとして生まれた自分の密かな責務であるなとも思うわけだし。


それがろくでもない経験だろうと、たくさんの景色を見た人間の方が厚みのある人間になれるはずだ。やらない後悔よりもやって後悔!いざTWENTY FOUR。今宵のジャックバウワーは私だ。



わたしはこの日現金を残り300円くらいしか持っておらず、ATMも翌朝午前8時まで受付を停止してしまっていたため、友人に金を借りるしかなかったのだが、何故だかわたしを発展場に連れて行きたくて仕方がないらしい彼は快くOKしてくれた。

実は、彼がはじめてその身を男に捧げてから、まだ半年くらいしか経っていない。それまでは、SEXなんて怖い!などと言っていたくらい、とても純情な人だった。27年間そうして生きてきた彼が、この半年間で驚くほどに変わってしまった。高度経済成長時代の日本並みの変化のスピードである。

人を変えるのは時間ではなくて経験なのだと思う。高度経済成長時代に、日本を目まぐるしいスピードで変化させたのは、その原動力となった日本人であり、彼らを支えたのは、「頑張れば報われる」という経験だったのではないだろうか。

頑張っても報われない社会になってしまったと言われるようになって久しい。今日のこれからの経験が、これから先、自分を支えてくれるようなものになってくれたらいいな。そんなことを考えながら、発展場への階段を登り、その扉を開く。



入ってすぐに靴を預けるロッカーがあり、その先に受付がある。受付には愛想の悪いおっさんがいて、言葉ではなくて目で、先に券売機でチケットを買えと命令してくる。

券売機には入場料2900円の文字。思ったよりたけぇ。友人も同意見のようだ。彼はここには平日に一度来たことがあるだけとのこと。どうやら時間帯によって値段が違うらしい。土曜の夜。発展場にも需要供給分析があるのだなぁ、と変なところに関心していると、友人が何やら焦っている。


「どうしよう...1000円しかない...」


現金を持たない2人のホモが発展場の入り口に舞い降りた瞬間である。このままでは、新宿2丁目で震えながら朝を待たねばならない。

どうしよう。その辺のおっさんに色目を使ってお金を恵んでもらおうか。ホモの食物連鎖。そういうことが出来てしまう自分にエクスタシーを覚えているようなホモを一定数知っている。

だが私も友人も、そんなことができるほど、心はまだ麻痺してはいない。それ以前に、色目の使い方なんて分からない。普段は色眼鏡をかけて世間を見下しているくせに、こういう時に限って眼鏡がどこかに行ってしまう。


仕方がないので、近くで飲んでいる別の友人に電話して3000円ずつ拝借することにした。

発展場の入り口で3000円ずつ借りるホモ。色目を使って誰かに貢がせるホモや貢ぐホモとどちらがとれだけ惨めなのだろうか。



気を取り直して受付へ。友人は携帯を充電してもらうらしく、300円ほどかかるらしい。
いいなぁ。自分も充電したいなぁ。でも300円ここで使ったら本当に無一文になっちゃうなぁ。この先襲われたときに、相手に投げつける銭すらなくなる。せめて生はやめてぇ〜〜!って訴える際に、コンドームを買う金すらなくなる。
そんな風に1人でブツブツ悩んでいたら、受付のおっさんが「2台一緒に預けてもいいよ。でも、預けた子が一緒に取りに来てね。」と、発展場に舞い降りた天使のようなことを言い出した。


ということで、自分の分も一緒に携帯を預かってもらう。友人とはぐれたら携帯を取り戻せなくなるので、「はぐれたとしても、翌朝7時には必ずここで落ち合おう」と、ジャックバウワーらしい約束を取り付けた。友人はさらに「もしも俺が戻ってこなかったら、携帯を取り返して1人で帰っていいから」などとすごくTWENTY FOURっぽいことを言い残してくれた。しかも死亡フラグである。


友人による24会館ツアーがはじまる。
受付があるロビー階が2階。普通に明るくて、まるで普通のスーパー銭湯である。受付をすませるとタオルと館内着の入ったバッグをもらえるあたりも、よりスーパー銭湯感を掻き立ててくる。

「2階にある休憩室はハッテン禁止の普通に寝れるところだから、最悪ここで寝ればいいから!」とのこと。 スーパー銭湯のように1人用のソファーが並んでいる。なるほど、眠くなったらここに来よう。


1階は立ち入り禁止。3階にお風呂がある。
なんと、普通の銭湯だった。
普通にシャワーで身体を洗って普通に湯船に入れる。わりと立派なお風呂である。
もうここが発展場であることなど忘れてしまいそうになる。
さっきから周りにも普通のおっさんしかいない。悪い意味でホモっぽくない普通のおっさん。見た目に気を使うことを諦め、家と会社の往復を繰り返すようなおっさん達。


わたしの不安さを感じ取ったのか、「4階に行くとさらに雰囲気変わるよ」と友人が言う。

上に行くほど若いイケメンになっていくファミコンゲームのようなシステムなのだろうか。楽しみである。


お風呂の中でふと周りを見渡すと、暖簾がかかっている入り口のようなものが目についた。

「あそこはサウナ。サウナの中は発展スペースだよ。」

サウナの中で発展ってなんだ。のぼせたりしないんだろうか。茹でダコみたいになってる人たちがまぐわったりしてるんだろうか。


掻き立てられる知的好奇心。暖簾をくぐってみるとそこには







なんだこれは。

サウナってのはもっとこう、木でできた椅子とかあって、みんなで温まっている空間をいうのではなかったか。こんなのただのダンジョンではないか。


サウナの定義を確認しようとしていると、友人が後ろからアナウンスを開始する。

「この右手にあるのが高温サウナ。まっすぐいくとミストサウナ。」

詳しい。
発展場のくせにミストサウナまであるなんて。すごい。見てみたい。

ということでまっすぐミストサウナに向かう。途中壁に寄りかかっているおっさんやら、向こうから歩いてくるおっさんやらに内心ビクビクしながらも、動揺を悟られてはいけない気がして、ただ前だけを向いてミストサウナへの道を歩む。


しかし予想以上に広い。さっきまでの明るかった浴場が嘘みたいに薄暗い。はっきり言って不気味である。


「この扉の奥がミストサウナだよ」


ミストサウナに突入する。



入ってまずその暗さにひく。しかもなぜか迷路が続く。戦慄迷宮かよ。
そして天井から「プシュー」みたいな音が聞こえてきており、水が降ってくる。
ここで「わーいミストサウナだぁ!」とか言って横になってくつろげる人がいるとしたら、その鈍感力は尊敬に値するレベルである。
だって迷路の最中である。しかも暗すぎる。下手すりゃ踏まれる。生ぬるくて気持ち悪い。

しかし、鈍感力に乏しい私も、知的好奇心はそれなりに高いらしく、この先にある景色をこの目で見たいと思った。

 


そんな想いを胸に抱いたまま不気味な通路の角を曲がると、そこには闇が広がっていた。



真っ暗。本当に真っ暗。パラノーマルアクティビティかよって思った。

しかも、なんか、人が蠢く姿がかろうじて確認できる。怖い。年齢すら推定できない。怖い。怖い。怖い。


わたしは本当に恐怖を感じたとき、言葉よりも先に身体が動く人間だったらしく、気づいた時には来た道を引き返す態勢に入っていた。

そして後ろにいたはずの友人がいなくなっていたことに気づいた。

嘘でしょ。なんなのこれ。どっきり?なんで?なんでいないの?

1人で来た道を引き返す。ミストサウナの入り口の扉を開けて脱出する。友人は見つからない。意味がわからない。ホラー?どっきり?みんなで隠れて、発展場に欲情してる自分を馬鹿にしてるの?
それとも友人まさか、誰かに手足を掴まれたりして、口まで塞がれちゃったりして、今頃もしかして、下のお口も塞がれちゃってたりするの?

た、たすけなくっちゃ。わ、わたしはジャックバウワーだから。

ダンジョンの奥へと足を踏み入れる。一人小走りの自分は明らかに浮いている。あくまでもここは浴室の延長にある場所なので、滑って転ばないように最新の注意を払う。
途中、白人と日本人と思われる3人が入り乱れる国際交流を目撃したりしながら、ダンジョンを彷徨うが、友人はぜんぜん見つからない。

恐怖と不快感が限界に達し、ダンジョンを脱出することにした。

浴室に戻っても友人はおらず、もう探し直す気力も残っていなかったので、仕方なく湯船に入って待つことにした。


五分ほど経った頃友人がダンジョンから無事に生還してきた。
友人は友人で、わたしを見失って探していたらしい。

もー!バカバカバカバカ!心配したんだからね!
恋人ごっこをすることで平静を取り戻しつつ、次のステージに行くことにする。


4階である。


浴場を出てパンツを履いて館内着を羽織る。帯を巻いて、本当にスーパー銭湯だなぁ。とさっきまでの事件を早くも忘れかけていると、友人は帯を締めずにそれを館内着のポケットにあざやかにしまい込んだ。

ストンッって感じで帯をポケットに入れたのである。

スラムダンクかと思うくらい、鮮やかなゴールだった。思わず見とれた。


そうか。帯は締めないのがプロフェッショナルの流儀なのか。と、なにを血迷ったのか私も彼の真似をして、ボディをはだけさせた状態で4階へと突入することにした。



4階は凄かった。すさまじかった。
メインとなる大部屋には二段ベッドが敷き詰められている。人間が歩く通路の両サイドに二段ベッド。二段ベッドが人の道を作っている。

 

二段ベットの中ではそれぞれのドラマが繰り広げられているようだった。みんなここに来るまでに色んな人生があったのだろうなぁ。ここに辿り着けた今は、幸せなのかなぁ、と1人考えを巡らせていた。

 

 

不思議なことに、ぜんぜん人の声が聞こえてこなかった。途中すごい勢いで腰を振る黒人なども見たのだが、体から出る音は凄まじかったが口からは誰も声を出していなかった。

 

真っ暗な大部屋の中では人の顔など確認できず、年齢すら推察が難しい状態だった。パラノーマルアクティビティ2。唯一はっきりしていたのは、来る前に友人から聞かされていた私好みのイケメンの気配などないということだけだった。

 

 

大部屋以外には死体安置所のような細長い部屋が1つあり、そこはとても明るい部屋でみんなが一列になって仲良く眠りについていた。

 

この場所の照明にはONかOFFしかない。明るすぎるか闇かのどちらかだけだ。闇でひとしきり恐怖を感じて光を求めた私たちは、そこで照らされる現実の辛さを知る。

 

 

 

現実から逃げるように5階へと向かう。

 

5階は4階の大部屋のスペースがすべて個室となっていた。普通のビジネスホテルみたいな入り口のドアが並んでおり、代金を支払わない限り中の気配すら感じることができない。

 

無料で入れるのはさきほどの死体安置所の5階バージョンだけだった。4階の死体安置所は蛍光灯で容赦なく照らされているのに対し、5階のそれはプラネタリウムのような青白い光で照らされておりなんだかフォトジェニックだった。顔も身体もはっきりと確認できる。できてしまう。星座のようにまぐわう彼らの姿が。あれはおおぐま座かな?あれ?あっちにもおおぐま座が...おやおや?向こうにもおおぐま座が...おおぐま座...

 

ここからだとデネブもベガもアルタイルも見ることは出来ない。寝デブしかいない。

 

 

5階終了。

 

 

「6階と7階は個室しかないから、特に行くところはないよ。でも見学だけしてきてもいいかも。あ、でも、人が少ないからお尻が洗いやすいよ(^_−)−☆」

 

友人がトドメにすごいアドバイスを語り出したので呆気に取られながら、とりあえず全部の階を見学に行くことにした。

おそらく友人はそろそろ1人になりたいのではないかなぁという気がしたのでここで解散

 

約束通り、次会えるのは朝の7時になるかもしれない。本当の冒険がはじまる。

 

 

案の定、6階と7階には個室につながる扉以外のものは確認できず、人の気配すらほとんどしなかった。

 

 

さて、どうしよう?

 

選択肢は4つ。

 

・3階の大部屋

・3階の死体安置所(蛍光灯)

・4階の死体安置所(プラネタリウム

・2階の安全地帯

 

 

この時点で眠気がMAXに近づいていたので2階にしようかと思ったが、なんだか勿体無い気がしてもう一度だけ3階と4階を一周することにした。

 

素敵な出会いに恵まれるかもしれない。俺好みのイケメンもいると言っていた友人の言葉を信じたい。

 

 

 

しかし現実はあまりにも残酷で、イケメンなんてどこを探しても見つけることはできなくて、そこには恐怖しかなかった。

 

仕方なく2階の安全地帯に避難することにした。

 

 

深夜帯なのでスペースがないかもしれないという不安に駆られていたが、奇跡的に1人がけソファが1台だけ空いていた。神様。ありがとう神様。

 

 

前列が禁煙席で後列が喫煙席というソファが2列に並ぶその場所は、前列なのにも関わらず恐ろしくタバコ臭かったが、贅沢はいってられない。

 

 

ここで朝を待とう。友人が今どこで何をしているのかは考えないことにしよう。満喫で夜を過ごすのと金額的にも同じくらいだし、良い経験ができた。恐ろしくタバコ臭いし、備え付けのブランケットが肌に触れることすらも生理的になんだか嫌悪感を感じたりするけれど、こんな経験なかなかできない。モノよりおもいで。プライスレス。

 

 

 

目を閉じれば、地球上どこにいても同じ体験ができる。すやすや眠るだけ。平等な体験。隣で寝ている人のイビキがすさまじいけれど、明日のために寝よう。このソファが今は私だけの世界。

 

 

 

むにゃむにゃ

 

 

 

 

むにゃむにゃむにゃ

 

 

 

 

むにゃ?

 

 

 

 

 違和感。

 

 

 

 

 なんだろうこの違和感は。

 

 

 

 

ブランケットに包まれた身体になにかが触れる感触がする。世界の蠢きを感じる。

 

 

 

目を開けた瞬間、そこには変わり果てた世界が広がっていた。

 

 

 

知らないおじさんが私のブランケットの中に手を入れている。

 

 

 

ヒィヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

わたしの叫び声が静寂を切り裂く。

 

実際は怖過ぎて満足に叫ぶことなどできず、出来損ないの悲鳴をあげるのが精一杯だった。

 

大部屋でさえ壊されることのなかった静寂をわたしが壊してしまった。

 

 

恐怖で目を見開くわたしにおっさんが驚きの表情を向ける。

 

お前に驚く権利があるのかよという想いに、目を逸らしたらヤられるという恐怖が注がれる。

 

 

硬直した表情でおっさんに視線を注ぎ続けると、おっさんは「おっとうっかり指定席を間違えちゃった」みたいな顔をしてどこかへと去っていた。

 

 

 

おっとうっかりじゃねぇよ。

ここはハッテン禁止ではなかったのか。
よくよく周りを見渡してみると、ソファでブランケットに包まれて眠っている人の横に立て膝をついたおじさんが点在していることに気づいた。立て膝おじさん連中がブランケットの中に手を突っ込んでいるのが見える。

 

 

地獄だ。

 

 

この世界に安住の地などなかったのだ。

 

 

さきほど周りを見渡した時にもう一つ気づいたことがあった。

 

この空間の中で圧倒的に自分が一番かわいい。

 

ここで寝たら間違いなく襲われてしまう。

 

 

いますぐここを出たい。

 

 

しかし所持金は300円。携帯も友人がいないとフロントから取り返せない。

 

 

私の私による私のための一人不眠不休マラソンがはじまった。

 

朝7時に友人が迎えにきてくれるはず。そのときまで必死に一人眠気に耐えた。

 

有り金をはたいてまで、なんでこんなことしているんだろう。

寝てもいい場所なのに、寝ることができない。

部屋の中央のTVに映るよく分からない通販番組を見ながら、じっと朝を待ち続けた。

 

 

ついに待ちに待った朝7時がきた。
友人が迎えにきてくれるはずである。

 

しかし、なかなか来ない。

10分ほどすぎても、友人は現れてはくれない。

 

 

もしや、何かあったのだろうか。何もなくても私の精神はもう限界を迎えていた。一刻も早くここから脱出したい。

友人を探しにいくことにした。

 

まずは手始めに自分の居たソファルームを探索する。

ブランケットに手を突っ込んでいる立て膝おじさん達がまだいる。この人達のモチベーションはなんなんだろう。

 

仮にこの中に友人がいた場合、手を突っ込まれていた場合、あるいは手を突っ込んでいた場合、私はどうしたらいいんだろう。

 

祈るような気持ちで友人を探すが見つからない。

 

 

隣の部屋に移動する。さきほどの部屋が一人がけソファ部屋だったのに対し、こちらは雑魚寝部屋である。

ここは2階だからハッテン禁止のはず、はずだったのだが、扉を開けた私はさきほどまで自分がいた場所がいかに安全だったのかを知る。

 

寝ているおじさんのパンツの中のモノを取り出して自分の手でコスコスしているおじさんがそこにいた。

しかも人組みどころじゃない。そのような団体が4組様くらいいらっしゃる。広くない空間にそのような人達が敷き詰められている。

もう意味が分からない。というか何が楽しくてそんなことやってるんですかと聞いて回りたい。お前のモチベーションはいったいなんなんだと。

 

一刻も早くその場を離れたい衝動に駆られるが、私にはミッションがある。この場所から友人を探し出すというミッションインポッシブルが。

 

泣きそうになりながら友人を探すが見つからない。

 

 

上の階に進むしかない。

 

 

3階へとゆく。お風呂場である。

友人は私を待たせて風呂にゆっくり入っているような性格ではないし、風呂の奥のサウナには二度と行く気がしないのでここは入り口で引き返す。

途中風呂場の鏡に映る自分の姿が見えた。

 

かわいい。

 

30年間生きてきて最も自分がかわいいと思った瞬間である。
肌が若くてピチピチしている。徹夜明けとは思えない瑞々しさがそこにある。ちょっとしたアイドル感さえある。

人の評価とは人類の永遠の課題であるが、それはいつだって相対評価だ。自分の評価をあげたければ、属する集団を変えればいいのだなぁという気づきを得た。

 

自信を取り戻しつつ4階へ。大部屋である。

収容人数の比率を考えるとここにいる可能性がもっとも高い。

しかしここは闇の間。顔もまともに確認することすら難しく、発見は困難を極める。

 

そもそも、ここで友人を見つけることができたとして、私はどうしたらいいのだ。

お楽しみ中の友人に対して、「帰るよ〜」とか平然と言い放つ強さが自分にはあるのだろうか。もしも友人があられもない姿になっていたとしたら、それこそ平静を保てる自信がない。

 

帰りたい。見つけたい。けれど、見つけることがなんだか怖い。

 

 

もうほとんど半泣きで大部屋を回るが、やはり暗すぎて何も確認できずに終わった。

 

 

次は死体安置所である。そこはとても明るい場所なので、仮に友人がどうにかなっていたとしても、はっきりとその姿を確認できてしまう。

 

死体安置所で変わり果てた友人の姿と再開したとき、私はどうなってしまうのだろうか。その場で泣き崩れたりしてしまいそうである。

 

心配だからいい加減見つけたいけど、どうかここにはいないでほしい...

祈るような気持ちで死体の姿を確認していく。

 

 

友人を見つけることはできなかった。

 

 

それは5階においても同様で、友人の姿は確認できなかった。

 

 

どうしよう。やはり4階の大部屋だろうか。しかしあそこはもう嫌だ。本能が拒否している。

 

 

私は友人が死亡フラグと共に言い残した言葉を思い出していた。

 

「もしも俺が戻ってこなかったら、携帯を取り返して1人で帰っていいから」 

 

 

 

帰ろう。

 

 

フロントへと向かい、携帯を自分の分だけ返してもらえないかと打診する。

 

 

 

 

ものすごい怒られた。

 

 

 

「預けた人が取りに来てっていったでしょ!!!後から問題になっちゃうでしょ!!!!!!」

 

などとよく分からないまますごい怒られた。

 

 

私はただただ頭を下げ続けた。

31にもなって、朝7時過ぎからハッテン場の入り口でこんなに説教される日が来るなんて思いもしなかった。

 

 

それでもなんとか携帯を返してもらえた。

 

やっと帰れる!

もうウヒョーって感じ。

外に出れるだけでこんなに嬉しいなんて。脱獄犯並みのアドレナリンが分泌されるのを感じる。

 

 

そうして私は24会館を後にした。

 

友人からは11時に「寝ちゃってたー!」と連絡が来たが、あの場で寝過ごせるほど熟睡できるなんて素直に尊敬した。たぶんどこでも生きていける。ハッテン途上国でも暮らしていける人だと思った。

私は多分、トイレが綺麗な先進国でしか生きていけないんだろうなぁと思った。

ラストチャンス 〜恋愛乙女にもっと勇気〜

視覚障害にも先天的なものと後天的なものがある。彼らの白杖の持ち方に、その特徴が現れると聞いたことがある。
 
先天的な視覚障害者の方は、持つ杖よりも顔が前に出る姿勢をとることが多いらしい。一方で後天的に視覚に障害を抱えた方たちは、杖を身体の前に突き出す形を取ることが多いのだそうだ。
 
 
世の中には危険なものや辛いことがたくさんある。私たちは現実を知るたびに、少しずつ臆病になっていくのかもしれない。
 
 
ゲイも三十路を過ぎるとどんどん臆病になっていく。ブスだブスだと罵られ、五月蝿いババァと蔑まれ、そんな日常を繰り返すにつれて、色んなことが、どんどんどんどん億劫になる。
 
そういう自分と付き合っていく能力を、生きる力と呼ぶのかもしれない。

 

 
それでも時々、何かを変えたいと思って行動に踏み出すことは、決して悪いことではないはずだ。
 
1人で合コンパーティに参加してきた。
マンションのパーティルームでの飲み会である。
普段は友達と馬鹿騒ぎしてるだけの飲み会も、1人になると嫌が応にも周りが目に入る。
 
こういうパーティは大抵、1つのイケメン集団にその他大勢が羨望の眼差しを向けるのだが、イケメン集団は彼らだけで盛り上がり、そのままなんの進展もなく終わる。
 
そういう宴を何度も見てきた。
 
 
でも、彼は違った。
 
 
私の2つ隣くらいにやたらマッチョなイケメンが座っていた。
 
出会いは自己紹介タイム。
イケメンの時は場が静まり、その他大勢の時は談笑がBGMになる、ありがちな時間。
 
今回は名前と最寄駅を言うというルールだった。
 
彼は名乗るのと同時に告げたのである。私と同じ最寄駅の名を。
 
 
一瞬ひるんだ。
 
あぁ、一緒だなぁって。
でもこんなブスと同じ駅なんて迷惑だろうなぁって。
住んでるだけでストーカーで訴えられたら嫌だなぁって。
 
こういう日常のワンシーンを通して、もういっそ違う駅の名前言っちゃおうかなぁって思ってしまうくらい臆病になっている自分に気づいてしまう。
 
でも、勇気を出して自己紹介。
 
───最寄駅は〇〇駅ですっっっ(チラッ
 
そしたら彼、優しく微笑みながら
 
───おぉ一緒だぁー!
 
って言いながら手を振ってくれた。
 
 
わぁ拒否されなかったぁ。
こんな私でも暮らしてていいんだぁ。
受け入れられた気がして、
いっしょですねーって微笑んで、あったかい気持ちになって自己紹介おわり。
 
 
でも同じ駅に住んでるってだけだし、
それだけで話しかけるなんておこがましいし、
ていうかみんな地球に住んでるわけだし、
そんなんで運命感じる年でもないし、
引き続き不貞腐れながら1人で席でごはん食べてたわけ。
 
 
そしたら、その筋肉野郎、
 
───フルーツ食べたーい!フルーツ食べてもいいですか?
 
って俺の方みて言いだした。
 
確かに私の前にはフルーツがある。
 
しかし、彼の前にも同じフルーツがあるのだ。
 
 
もしかして私、幹事だって思われてる?
そんなに玄人臭溢れてる?
 
わたし、一生懸命間違い探しした。
 
彼の前にあるフルーツと私の前にあるフルーツ、違うのは、私が側にいるってことだけだ。
 
いやいやそんなはずない。間違い探しを舐めちゃいけない。序盤で見つかる間違いは囮だ。私たちはマジカル頭脳パワー世代。今では肩身が狭くなってしまったけれど、日常に潜むマジカルは、今も変わらず、私たちを千堂あきほにしてくれる。
 
でも、得点の高そうな間違いが見つからない。
もしかして私の体臭を感じ取ってこっちにドリアンがあると思ってる?
 
流石に間違い探しも時間切れで、板東英二も痺れを切らして、とりあえず「え?うん?いいんじゃないですか?」って答えた。
 
わたし、幹事じゃないですよっていう想いを込めて。
 
 
そしたら彼はおもむろに席を立ち上がり、私の席のフルーツを取りに来た。
 
そしてフルーツを取りながら言った。
 
───あ!ていうか〇〇駅ですよね!?
 
さらに続けるのだ。
 
───えーはなしたーい!
 
しまいには私の隣に座っていた強めのママみたいな男に
 
───すいませんここ座りたいんで!
 
って言いながら彼を押しのけ、私の隣に強引に着席した。
 
 
な、なに!?なんなのこの人!?
 
てかゴメンね隣の人...あぁでもこの人筋肉すごい...
 
私がパニクっていると彼はさらにこう続ける。
 
───じゃあ今日一緒にかえりましょうよー!
 
 
 
 
わたし、その時初めて、自分が生娘だったということを知った。
 
どんな時でもウィットに富んだ返しをすることを第一に生きてきた人生だった。
 
無難な言葉で場をつなぐだけの生娘を、ずっと見下していた。
そんなの生きてるって言わない。ゆっくり死んでいるだけだって。
 
それなのに、こんな感情の高ぶりのせいで、自分の口から言葉が出てこなくなる日が来るなんて。
 
コミュ障だって思われたくない一心で、口を開くことだけが精一杯になってしまうようなことがこの身にふりかかるだなんて。
 
はい。ご近所のお友達欲しかったんです。なんていうつまんない言葉しか言えなくなるなんて。
 
けれど、不思議なことに、ゆっくり死んでるはずなのに、何故だか生きる活力が湧いてきてしまう。
 
今日だけは生娘になってしまおう。ガラスの靴はないけれど、だからこそ、この魔法はきっと解けない気がする。
 
 
 
そして私たちはパーティでひとしきりダンスを楽しんだ後(イメージ)、同じ帰路に着く。
 
会話を通して、自分たちの家が徒歩1分レベルの近さであることが判明した。
 
人間の意志を超越して人に幸、不幸を与えることを、この世界では運命と呼ぶ。
 
ベートーヴェンは運命が扉を叩く音を曲で表現した。言葉だけでは表現できない貫きが、運命にはある。
 
 
──でも俺もうすぐ引っ越すんですけどねー
 
 
ジャジャジャジャーン!!
 
流石は運命。冒頭から強烈。
 
どこに?カリフォルニアあたりに?
せっかく幸せになれると思ったのに?
臆病な自分にさよならできると思ったのに?
 
 
──まぁ同じ駅に引っ越すんだけどねw
 
 
あぁ、この人はより高いステージを見つけに行くんだね。いい男は高い向上心から作られるものだから。より良い住処を見つけて、そして、私を探し当てた。
 
運命が扉を叩く音がどんどん強くなる。
 
私はずっと疑問だった。ベートーヴェンは難聴だったはずだ。しかし彼は運命の訪れを音に例えた。それが不思議だった。でも今謎が解けた。運命が扉を叩く音は、ハートに響くのだ。鼓膜とか、神経とか、そういうものをすべて超越して実感するのが運命なのだ。
 
 
そうか。あなたはより高いステージに行くんだね。でもそれだと家賃ちょっと上がっちゃうんじゃないの?
 
 
──そうですねー。家賃、今の5倍です。
 
 
ご、ごばい!?
界王拳でも使うの!?
 
 
え、えっと、、今まで豚小屋かなんかに住んでたの?
 
──ちがうよw
 
 
え、え、あ、、ルームシェアとか?
 
 
──そうですw
 
 
あぁそっかぁ。5人くらいで住むの?
 
 
──いや、2人です
 
 
ふ、ふたり?
比率の計算おかしくね?
2人になっても5倍になったら、あなたが支払う金額は少なく見積もっても今の2倍だよね?
 
 
──いや、全部払ってもらうんです(照)
 
 
は?なにに?税金に?この人まさか都知事?
 
え?え?え?それってもしかして、パパ的なsomethingですか?something else?Give me a chance?
 
 
──違いますよwまぁもう家族みたいなもんなんすけどね。18の頃から、9年付き合ってるんです。
 
 
 
 
 
サムシングエルスは、彼らが記した歌詞のように、与えられたチャンスを一度は掴んだかのようには見えた。その瞬間はドラマティックで、大衆の心を掴んだ。しかし、チャンスも心も、離れる時にはドラマなどなく、気づいたら遠くに行ってしまっているものだということを、彼らは教えてくれた。
 
 
 
ていうかあなた、今日何しに来たんですか?天上界からわざわざ、私のことを笑いに来たんですか?
彼氏は今日の飲み会に参加してること知ってるんですか?
 
──うん。信頼されてるから。自分も彼がどこに行っても、最終的には自分に返ってくるって信じてるから、全然気になんない。あ、これ彼の写真。某有名雑誌でモデルしてたんだよね。
 
 
ビックリするほどイケメンだった。
庶民の5倍の戦闘力を持つイケメン。
私のスカウターはとっくに壊れていたが、それでも分かる。彼等の圧倒的な強さが。
 
 
わたし、29年間努力で手に入るものは全部手に入れてきた。
 
30になって、努力じゃどうにもならないことがあることを嫌というほど知った。
 
確かに遅すぎる気づきだったかもしれない。
 
でもだからこそ、充分すぎる経験知として、嫌という程この身に沁みわたっているのに。
 
知ってたのに。
 
もう分かってたのに。
 
 
だからちゃんと、傷つかないように、自虐という杖をちゃんと前に出して、安全確認してたのに。
 
 
それなのに。
 
 
神様どうして?
 
 
私の前に、天上界の使者を?

同伴者効果を利用した営業戦略の実践と評価

心理学に、同伴者効果と呼ばれる現象がある。

魅力的な人と一緒にいると、この人もきっと素敵な人に違いないと、第三者からの良い評価が得られやすくなる、という事象である。

「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、人間には「人は同じレベルの者同士でつきあうだろう」という意識があるのだそうだ。

イケメンとつるんでいればイケメンに間違われる可能性が上がる、というわけである。そうでなくても、こんなイケメンとつるんでいるなんて、きっとこの人も素晴らしい長所を持っているに違いないわっ!ってな具合に、相手が勝手に都合良く想像を膨らませてくれそうである。


これを利用しない手はない。

わたしがモテないのは、ブスとばっかつるんでいるからだったのだ。ブス友と一緒になってイケメンを見つけては「このお酒あなたの唾液で割って〜〜〜♡」とか言って勝手に喜んでるんだから、そりゃあ来るものも来ないし去る者は加速する。


ということで、数少ないイケメンの知り合いを無理やり連れ出して合コンへ行ってきた。

人数は40人くらい。会場は広め。
自由度が高いこの空間にイケメンと共に参戦するということは、生肉を持って野獣たちの檻の中へと突入するようなものだ。さぁ、群がれ獣たち。


なんて思っていたものの、イケメンと一緒にいるだけで獣が群がってくると思ったら大間違い。ホモってみんな本当に奥手で、ビクビクしながらイケメンから声かけられるのを待っている。

そして、イケメンがわざわざ話しかけに行きたいと思うのもまたイケメンなのだが、そういう奴は大抵誰かに捕まってしまっている。

手持ち無沙汰なイケメンは仕方なく一緒に来たブス(俺)と談笑する。

その様子がまた、他の人から見た時の話しかけにくさに拍車をかける。

これがイケメンネガティヴスパイラルなのだなぁと、イケメン目線になることで初めて得られる気づきがある。

このイケメン、俺と話してるせいで他の人から話しかけられねぇんだなぁって思いながらも、他の参加者達から浴びせられる羨望の眼差しが気持ちよくて、お喋りすることを止められない。私は1秒でも長く、このイケメンの笑顔を見ていたい。そして周囲の人間から、もしかしてあの2人付き合ってるの?やだーお似合ーい!やれやれ、私たちじゃ敵わないわね(頭コツンッ)とか噂されていたい。


当初の目的は完全に見失ってはいるものの、これはこれでハッピーセットだし、やっぱりイケメンってすげぇなぁって思ってたら、見慣れぬ平民が我々に近づいてきたんですよ。

彼は言うわけです。


「よかったら連絡先を交換してもらえませんか?」


ハッピィ!セット!!


もうね、マクドナルドの新しいCMこれでいいんじゃない?って思った。絶対業績回復するでしょこんなの。

同伴者効果すげぇ。パネェ。

心理学って使えるんだね。再現性があるものがわずかに39%とか言われてたりもするけれど、今ここでちゃんと役に立ったよ。誰が何と言おうと、わたしにとっては100パーセントのハッピーセットだよ。(CMここまで。)


もちろん、ここですぐに浮き足だったりはしない。なぜかって?イケメンだからさ。イケメンは理由になる。はしゃがない。欲しがらない。無様な姿は晒さない。夢見る少女じゃいられない。Because of IKEMEN!!

だから私は大人の落ち着きと余裕を見せつけるの。だってこの平民も、勇気を持って我々に話しかけにきてくれたんだから。声かけたいな。大丈夫かな。変な人だって思われたら嫌だな。でも、勇気ださなきゃ変われないよな。やらずに後悔よりもやって後悔!頑張れワタシ!えいえいおー!

分かる。分かるよその気持ち。
このとき、私たちは他の知り合いも入れて三人で話し込んでいたんだけど、そんな中1人で乗り込んでくるなんて偉い!ここは私が君のために、この場の空気を解きほぐして進ぜよう。


「もちろーん!ってか誰と?誰と交換したいの?笑」


軽やかに聞いてやったよね。LINEのふるふるする仕草とか交えながら、それはもうコミカルに。交換する準備できてるよー!つって。

突然声かけられてビックリしてた俺と一緒にいた2人も、「こいつぅ♡」みたいな顔して微笑んでるし、これなら平民も冗談めかしてイケメンの連絡先が聞けるよね。いいのよ私のことは。ピエロになるのは慣れっ子だから😉

つって平民に、気にしなくていいんだよってウィンクしたら、彼は感謝の言葉をこう口にしてきた。





「あ、いや、あんま話してないんでいいです。」




は?


え?なに?何言ってんのコイツ?いいって何?何がいいの?ってかなにさっさと他の2人とLINE交換しようとしてんの?平民の皮を被った愚民なの?飼い犬に手を噛まれるってこのこと?コイツが噂に聞く平成の明智光秀なの?あぁでも、三日天下だったのは俺の方か...アハハ...。

アハハじゃねぇし。あんま話してないからいらないってなに?あんま話してないからこそ連絡先が必要なんじゃないの?っていうかアンタ、俺の隣にいるこのイケメンとはそんなに話したの?話してないよね?だってコイツずっと俺と一緒にいたからね?今だって俺の方見てめっちゃ笑い堪えてるからね?ていうか堪えきれずに笑っちゃってるからね?笑いすぎて携帯とかまともに操作できてないからね?アンタが狙ってるそのイケメン、今俺に夢中だからね?


ていうか2人と交換するなら3人になっても一緒だろ!!つってQRコード映し出すイケメンの携帯になんとか俺のLINEのQRコード反射させらんねぇかとか試みたけど、健闘むなしく愚民の携帯が俺の連絡先を読み取ることはなかった。

イケメンズのLINEをゲットした愚民は満足そうに帰っていったのだが、その後愚民からイケメンズに連絡が来ることはなかったという。
一体あの愚民は何しに来たのだろうか。単なる笑いの使者だったのだろうか。




その日は新しい靴が欲しかったので、帰るついでにトボトボとABCマートに立ち寄ると、二足目半額セールをやっていた。ただし半額になるのは対象商品だけで、それらは私から見るとどれもイマイチだったため、結局本当に欲しいものを一足だけ買って家路についた。

売れない商品を売れる商品にくっつけて無理やり売ろうとしたところで、売れないもんは売れないのである。
あの靴、私みたいだなぁってことに気づいたのは、次の日新しい靴を履いてみて、やっぱり一足にして正解だったなぁと実感した瞬間だった。

ペルソナマーケティングを仕掛けてホモの花見に参加した話

日清のCMが話題を呼んでいる。

現代のSNS時代は、非寛容な時代と言えます。挑戦すれば、揶揄される。失敗すれば、叩かれる。このままでは、みんながちぢこまり、だれも挑戦しなくなってしまう。でもそこで大切なのは「自分の声」を聞く勇気。そして、私たちに必要なのは、相手の失敗を許容するという態度、寛容の精神だと思います。
 
非寛容な時代を逆手に取り、攻めに転じる姿勢から私達が学ぶべきことは多い。
 
このCMが公開されるちょうど前日に、古舘伊知郎さんが報道ステーションを降板している。
 
 
 
傷つくことを恐れるあまり、無難な言葉でガードを固める人を見ると、その弱さを感じてしまって不憫になる。その臆病さを軽蔑することさえある。
 
 
人の心に爪痕を残したいのなら、ちょっと賭けに出ないといけない。
 
 
 
そんな想いを胸に、ホモの花見に行ってきました。
 
ブス友が1人いるだけで、あとは知らないホモが30人。
今回は静かなホモが多いらしい。
 
人は、自分にないものを求める。
 
決めた。今日はターゲットを絞って勝負を仕掛けることにしよう。
今回のペルソナは静かなイケメンホモ。28歳。若い頃は遊び歩いた頃もあったけど、年齢とともに心も股も落ち着き始めている。歳も歳だし、今更また昔みたいにってわけにはいかないけど、最近少し物足りなさを感じている。「元気で面白い人と一緒にいると、こっちまで楽しくなっちゃうんだよな。明るいところに連れ出してくれる気がしてさ。俺、一緒に居て楽しい人が好きなんだ。」
 
 
すでに競合は少ないことが分かってるし、自社の強みも活かせる市場。わたしが幸せを掴むにはもうこのフィールドしかない。
 
 
ということで、元気いっぱい頑張りましたよ。
天気はあいにくの曇り空だったけど、私の明るさでみんなの心が少しでも晴れわたればいいなぁって。ペルソナ君を明るいところに連れていってあげたいなぁって。あわよくば暗いところにも連れ出しちゃおうかななんつって。
 
すっごい喋った。もう過呼吸より過呼吸なんじゃないかってくらい。私があの空間の酸素のほとんどを頂戴してんじゃないかしらって感じだった。JUJU歌えって急に言われたときだって間髪入れずにこの夜を止めてよって健気に歌いきった。
 
初対面の人にでも伝わる分かりやすいトークを目指して喋り倒しましたとも。
周りがホモにありがちな閉鎖的な内弁慶トーク*1を繰り広げる中、わたし、全力で、それはもう必死に、わかりやすい笑いを追及しましたよ。だって、ペルソナ君が明るくて面白い人が好きだって言ってたから。
 
 
山崎春のペニパン祭り♪ってブス友と声揃って歌えたときとか盛り上がりのピークだったね。俺が唐突に山崎春の~♪って歌いだしたら、ブス友すごい反射神経で最後ハモったからね。一瞬で名曲作った瞬間だったね。宇多田ヒカルの新曲とか余裕で潰せんじゃない?って思った。
 
 
で、歌い終わって一人でひとしきりゲラゲラ笑ってたら、周囲から人っ子一人いなくなってた。
私の周りの人々気づいたら大移動してた。ゲルマン人なのかな?
 
いや、薄々は感じてたよ? ここは恋愛戦国時代!わたしは上様!男に飢え様!とか言ってたら、目の前に座ってた若いホモが「この席きついわぁ~」とか言い残して去っていった背中とかちゃんとガッツリ見てたよ?
 
でもね、みんなに愛されるのなんて無理だから。わたし、ペルソナくんに愛してもらえればそれでいいからって自分に言い聞かせて健気に生きてきたんですけど、その引き換えに得たものがこの孤独だっていうの?
 
なんなの?ちょっとペルソナくん出てきて!先生怒らないから!ペルソナくんは手をあげて!!お客様の中に、ペルソナくんはいらっしゃいませんかー!!
 
半泣きの私が必死にペルソナくん探してたら、心優しい幹事がフォロー入れに来てくれたんだよね。
「今日の参加者達、ゲイバーとか全然行かない人達だからさぁ~。」
 
 
え?
 
 
わたしはただ、ペルソナくんの期待にこたえようと努力していただけなんだけど?別にここで出張ゲイバーとか開こうとしてるわけじゃないんですけど?ていうか私もゲイバーとか滅多に行きませんけど?そもそも遅咲きで初めてホモと会ってからまだ一年ちょっとのシンデレラですけど?
 
 
そういえばさっき、もしかしたらこの人がペルソナくんかな?って思ってた人から唐突に「どっかゲイバーとかで働いてるんですか?ていうかチーママかなんかですか?」って聞かれたような気がしたんだけど、あれは空耳じゃなかったのかな?
 
期待に応えようとするその責任感が、仇になることなんてあるの?
 
だったら私は、SNSなんかよりももっと閉鎖的なこのホモの世界を、どうやって生きていけばいいの?誰か、誰か教えて!
 
 
つってブス友のいる方向振り向いたらね、なんか一人でドキドキした顔して座ってんの。
あれ?どうしたの?セクシャルイベント?って思って近づいたら、なんか自分の手が誰かの手に触れててドキドキしてたらしいだよね。
でもね、よく見たらそれ、ただの生温かいスポンジだった。
こいつスポンジの上に手をのせて一人で顔赤らめてた。
 
このブス友、二次会の掘りごたつでも同じように1人でニヤニヤしながら顔赤らめながら、「誰かの足が触れてる...」って呟いてたんだよね。俺が足元確認してみたらそれも自分の傘だったからね。こいつすげぇなって心底思った。


ブスが幸せな気持ちで生きていくためには、こんな風にして、小さなトキメキをかき集めていくしかないのかな。きっとそう。こんな風にして、自分の心を市場にしてしまえばいいんだ。そうすれば、実在するかどうかも分からないペルソナに一喜一憂することもなくなる。舞台は探すものじゃなくて作るものなんだな。自分の心の中に。

*1:隣の人にだけギリギリ聞こえるくらいの声量でボソボソ喋るトーク術。自信はないがプライドを守りたいときなどに使用される。

ホモの合コンに行った話

美人は3日で飽きるけど、ブスには初日が来ない。

 

世の中には、思っていても言葉にしないことがたくさんあります。
身も蓋もない言葉からは、苦笑いしか生まれないから。
耳障りのいい言葉を並べておけば、その場は切り抜けられるから。

しかし、綺麗事に囲まれていたからといって、現実が優しくなるわけではありません。

美人はモテるし、ブスはモテない。

 

顔が綺麗じゃなくても、性格が良ければ、愛嬌が良ければ、いい人に出会えるよ、という意見もあります。
それはある意味正しいと思います。私自身も、そんな風にして幸せをつかんだ人、たくさん知ってます。

 

だが、ホモの世界はもっと厳しい。

 

 

電通総研の調査によると、13人に1人はLGBTなんだそうです。
意外と多いな、という感想をよく目にするように、私たちが日常生活において、当事者とめぐり合うことはほとんどありません。みんな内緒にしているからです。ここにホモの出会いの難しさがあります。

 

友達にしろ恋人にしろ、世の中の出会いの多くは、学校や職場から発生します。

共通のコミュニティで長い時間を共に過ごしていくことで、相手の様々な顔を知り、もっと色々な表情が見たいだの、私だけに弱った姿を見せてほしいだのなんだの言って、アラやだ、アタイ、アイツのこと好きになってるやないの/// 気づいたら恋、走り出してた...とか言っちゃってるわけです。

 

長い時間をかけて、相手の内面を知り、恋心を募らせていく。時間をかけて形成されゆく内面への評価が、外見に対する印象を覆すことさえある。ブス逆転のチャンスです。

 

そのチャンスに恵まれないのがホモなのです。

前述したとおり、ホモ同士が学校や職場で出会うことは皆無です。
ホモはホモの社交場で出会いを探すしかないのです。ホモの社交場というのは色々種類があるのですが、要は「共通のコミュニティを持たないホモが介するような場所」です。そこには長い時間をかけて相手の内面を見ているような暇はありません。みんな顔しか見てない。

出会いに飢えたホモ達に与えられたわずかな時間、顔を見るなって言うほうがおかしい。ホモ達には震災時にトリアージ*1を行う医療従事者の如くすばやい判断能力が求められるのです。そこで黒(死亡)とかつけられたら終わり。手すら合わせてもらえない。そんな!まだ助かるかもしれないやないの!もっとちゃんと見てよ!!とか言ってもダメ。だって医療従事者は他の患者を見なくてはいけないのだから。グズグズしてたら助かる患者まで手遅れになってしまうから。

 

そんな厳しいホモの世界の合コンに行ってきました。といっても、ホモが90人飲み屋に集まって、人見知りを発揮させて身内と喋ることで時間を過ごすただの飲み会。ホモだって普通の人間だから、知らない人に話しかけて傷つくことは怖いのです。むしろすごく臆病。人間は人の痛みを知るほどに、優しくなる代わりに脆くなる。

 

だからホモの出会いは難しい。しかし、どんな課題にも方法論がある。私たちは、たとえ失敗を繰り返したとしても、傷ついたとしても、少しずつでも前に進まなくてはいけない。PDCAサイクルを回さなければならない。

 

ということで、一緒に参戦する非モテアラサーのホモ友達と1週間前から作戦を練ることにしました。貧乏暇なしとは言うけれど、恋愛貧乏に与えられるのは暇しかない。

私たちが1週間かけて練り上げた3つの作戦がこちら。

■作戦名:
①イケブスどすこい作戦 
②ザビエル作戦〜信じるブスは救われる〜
③スチュワーデス作戦

■概要:

①イケブスを狙ってアプローチする。イケブスとは、イケる*2ブス*3のことと定義する。

②フラれたら十字架切って「ザーメン」つって祈りを捧げる。

③お客様の中にビー専(ブス専)の方はいらっしゃいませんかー!つって呼びかける。

■背景:

①イケメンは競争率が高くて私たちのことなんて見えない。隙間産業を狙うブルーオーシャン戦略*4をとる必要がある。

②イケブス会→イエズス会→ザビエル
言ってしまえばただのダジャレ。しかし、心の脆いホモにとって、フラれた際に自分の心を守るためのルーティーンを用意しておくことは重要。

③人類の多様性に懸ける。

 

 

諸葛亮孔明もビックリの作戦を携えていざ参戦。

 

そして気付いた。90人もいる空間の中で見知らぬ他人に突然話しかけるなんてナンパでしかない。ヘイ彼女ひとり〜?つって。ていうかほぼ確実に1人じゃないし。囲まれてるし。友達に。そしてわたしと同じようなハイエナに。イケメンは嫌でも1人になんてなれない。私たちがそうはさせない。

 

ていうか案の定みんな知り合いとばっか話し込んでっし。よぉ久しぶりーとか言って。私も行こうかな。久しぶりー。前世ぶりーつって。
こういう時に知らない人に話しかけられる人ってホント信じられない。あなた感情ないんじゃないの?って思う。わたし感情の塊だから、ヘイ彼氏!俺で妥協しなーい!?って言えない。

 

しかもイケブス狙うはずが気付いたらイケメンばっか見ちゃう追っちゃう探しちゃう。横でブス友がもっと現実を見てー!って叫んでるけど全然耳に入ってこない。夢を追いかけてなにが悪いの?諦めないでと叫び続ける心の中の真矢みきを、止める権利など誰にもない!イケブス作戦失敗。ザーメン。

 

挙げ句の果てに私がずっと目でストーキングしてたイケメンに5年付き合ってる彼氏がいるとか風の噂で聞こえてくるし。風の噂でフラれるとかなんなの?かまいたちなの?カマによるカマのためのカマいたちの夜なの?ていうか彼氏がいるならお歯黒でも塗っとけよって話。夢見て傷つくブスの気持ちも少しは考えろって小一時間説教したい。個室で2人っきりで話し合いたい。そして俺のことを好きになって欲しい。

 

こうなったらもう最後の手段しかない。

 

お客様の中にビー専の方はいらっしゃいませんかー!!

 

...いなかった。ビー専どころか人っ子ひとりいないんじゃないのこの機内。ねーねー機長、乗客乗せ忘れてない?私の声、犬笛みたいになってんですけど。ほーらね聞こえないでしょー?って感じ。ザーメン。無念。

 

もうね。ザビエルしか味方がいない。そもそもよく見たらフラれた時の作戦しか用意してねぇし。現実路線踏みすぎだし。
飲み物取りに行くイケメンの足が私のカラダにぶつかった瞬間がハイライトってくらいセクシャルイベント皆無だし。

 

一番気分がアガったことはといえば、ブス友に肌キレイになったんじゃない?ってブスを褒めざるを得ない際の常套句みたいなこと言われてひっそり喜んだことくらいだし。流石ブスはブスの喜ばせ方が分かってんなぁ。ブスの良いところは人の痛みを知っていること。わたしたちは今日もまたこうして、少しずつ優しくなっていく。脆くなっていく。

 

*1:災害時など、大量に医療を必要としている患者がいる際に、重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと。優先度に応じて、色のついた札を患者に貼る。

*2:ホモの世界では、イケてる人をイケると表現することが多い。性的にイケる(やれる)というゲスな意味から来ている。

*3:ホモの世界では挨拶感覚でブスって言う人が多い。そのせいで、ブスという言葉がカジュアルに用いられる文化がある。それ以外にも、一般人からしたら口の悪い奴らだなって思われそうな文化がたくさんある。

*4:海外の偉い教授が唱えた経営戦略論。競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)」とし、競争のない未開拓市場である「ブルー・オーシャン(青い海、競合相手のいない領域)」を切り開くべきだと説いたんだとか。